
送迎中にドライバーがケガをしたとき、まず確認したいのは「これは業務災害か、通勤災害か」です。結論から申し上げると、どちらであっても労災保険の給付は受けられますが、最初の3日間の補償を施設が負担するかどうか、労働基準監督署への報告が要るかどうかが変わります。非常勤やパートのドライバー、定年後の再雇用ドライバーも、労働者として雇っているなら労災保険の対象です。この記事では、送迎業務で判断が分かれやすい場面と、事故のあとに必要になる手続きを、条文に沿って順に整理します。
送迎ドライバーのケガは労災保険のどの区分にあたるか
労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)第7条第1項は、保険給付を業務災害・複数業務要因災害・通勤災害・二次健康診断等給付の4つに分けています。送迎の現場で問題になるのは、このうち前の3つです。
▶ 業務災害
「労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡」(同項第1号)です。送迎車を運転している最中の事故、利用者の乗降を介助しているときの転倒や腰痛、車いすの積み下ろしでの負傷などが、これにあたります。
▶ 通勤災害
「労働者の通勤による負傷、疾病、障害又は死亡」(同項第3号)です。ドライバーが自宅から施設へ出勤する途中の事故が典型です。
▶ 複数業務要因災害
複数の事業で働く労働者(複数事業労働者)について、2つ以上の事業の業務を要因とする負傷や疾病を指します(同項第2号)。送迎ドライバーは早朝や夕方だけの短時間勤務が多く、他の仕事と掛け持ちしている方も少なくありません。掛け持ちのある方が被災した場合は、この区分もあわせて検討されます。
「通勤」の定義は条文で決まっている
同法第7条第2項は、通勤を「労働者が、就業に関し、次に掲げる移動を、合理的な経路及び方法により行うことをいい、業務の性質を有するものを除く」と定義しています。掲げられている移動は、①住居と就業の場所との間の往復、②厚生労働省令で定める就業の場所から他の就業の場所への移動、③①に先行し、または後続する住居間の移動(厚生労働省令で定める要件に該当するものに限られます)、の3つです。
ポイントは「合理的な経路及び方法」という条件と、「業務の性質を有するものを除く」という除外です。後者があるため、移動そのものが業務の一部といえる場合には、通勤ではなく業務として扱われることがあります。どちらにあたるかは、その移動の実態をもとに個別に判断されます。
寄り道(逸脱・中断)をどう見るか
同法第7条第3項は、通勤の経路を逸脱したり、移動を中断したりした場合は、その間とその後の移動を通勤としないと定めています。ただし、その逸脱・中断が「日常生活上必要な行為であつて厚生労働省令で定めるものをやむを得ない事由により行うための最小限度のもの」であれば、逸脱・中断の間を除いて通勤として扱われます。
その「日常生活上必要な行為」は、労働者災害補償保険法施行規則(昭和30年労働省令第22号)第8条が5つ挙げています。
- 日用品の購入その他これに準ずる行為
- 職業訓練、学校教育法第1条に規定する学校において行われる教育その他これらに準ずる教育訓練であつて職業能力の開発向上に資するものを受ける行為
- 選挙権の行使その他これに準ずる行為
- 病院又は診療所において診察又は治療を受けることその他これに準ずる行為
- 要介護状態にある配偶者、子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹並びに配偶者の父母の介護(継続的に又は反復して行われるものに限る。)
帰りに夕食の買い物へ寄る、通院する、家族の介護に立ち寄る——こうした行為は条文に挙げられていますが、「最小限度のもの」という限定が付いています。実際に通勤と認められるかどうかは、立ち寄りの内容や時間を含めて所轄の労働基準監督署が個別に判断します。
送迎業務で判断が分かれやすい場面
送迎の働き方は、一般的な事務職の通勤とは形が違います。次のような場面は、業務なのか通勤なのかが一義的に決まりません。
▶ 送迎車を自宅に持ち帰り、翌朝そのまま最初の利用者宅へ向かう
施設に立ち寄らずに直行する運用です。この移動が「通勤」なのか、第7条第2項が通勤から除いている「業務の性質を有するもの」にあたるのかが問題になります。車両の管理を誰が行っているか、移動が施設の指示によるものかといった実際の運用をもとに判断されるため、持ち帰り運用をしている施設は、あらかじめ所轄の労働基準監督署に扱いを確認しておくことをおすすめします。
▶ 送迎の合間に自分の用事で車を離れた
午前と午後の送迎の間に空き時間がある勤務では、その時間が休憩なのか待機なのかによって見方が変わります。空き時間の扱いを勤務シフト上で明確にしておくことが、結果として災害時の判断材料になります。
▶ 利用者宅の玄関先・敷地内での転倒
車から降りて利用者を迎えに行く動作は送迎業務の一部です。段差や砂利、雨天時の濡れた通路など、施設の外で起きる負傷こそ記録が残りにくいため、ヒヤリハットの段階から拾っておく価値があります。
労災保険から何が出るのか、施設は何を負担するのか
治療については、労災指定医療機関であれば窓口の負担なく必要な治療を受けられます。休業したときの給付は、労災保険法第14条第1項が「労働することができないために賃金を受けない日の第四日目から支給するものとし、その額は、一日につき給付基礎日額の百分の六十に相当する額とする」と定めています。これに社会復帰促進等事業として休業特別支給金(給付基礎日額の20%)が加わるため、実際に受け取れるのは合計で給付基礎日額の80%です(厚生労働省の説明による)。給付基礎日額は、原則として労働基準法第12条の平均賃金に相当する額です(労災保険法第8条第1項)。なお第14条は業務災害の休業補償給付についての規定で、通勤災害の休業給付は第22条の2第2項が第14条を準用し、「業務上の」を「通勤による」と読み替えて同じ計算を行います。
業務災害と通勤災害では、給付の名称と、施設が自腹で負担する部分が次のように変わります。施設側がいちばん見落としやすいのは、真ん中の「最初の3日間」です。
▶ 休業4日目以降
どちらも給付の対象です。名称だけが違い、業務災害は休業補償給付、通勤災害は休業給付で、いずれも休業特別支給金が加わります。
▶ 最初の3日間(待期期間)
業務災害は使用者が平均賃金の60%を補償します(労働基準法第76条第1項)。通勤災害は労働基準法の災害補償の対象ではないため、この3日分の事業主補償はありません。
▶ 一部負担金
業務災害はかかりません。通勤災害は原則200円が最初の休業給付から差し引かれます(除外あり)。
待期3日間の根拠は労働基準法第76条第1項で、「使用者は、労働者の療養中平均賃金の百分の六十の休業補償を行わなければならない」と定められています。労災保険の給付が行われる部分は同法第84条第1項により使用者が補償の責を免れますが、給付が出ない最初の3日間は免れる対象がなく、施設の負担として残るという関係です。
通勤災害の療養給付については、労災保険法第31条第2項が「二百円を超えない範囲内で厚生労働省令で定める額を一部負担金として徴収する」と定め、その額を労災保険法施行規則第44条の2第2項が200円(健康保険の日雇特例被保険者である労働者は100円)と定めています。徴収は同条第3項により休業給付を支給すべき場合に、その休業給付から控除する形で行われます。
ただし同条第1項は、第三者の行為によって生じた事故により療養給付を受ける者、療養開始後3日以内に死亡した者その他休業給付を受けない者、同一の通勤災害について既に一部負担金を納付した者を対象から除いています。通勤中の交通事故で相手方がいるケースは、この1号にあたります。
掛け持ちドライバーは全社の賃金を合算して計算する
2020年(令和2年)9月1日に施行された改正で、複数事業労働者の給付基礎日額は「当該複数事業労働者を使用する事業ごとに算定した給付基礎日額に相当する額を合算した額を基礎として」算定されることになりました(労災保険法第8条第3項)。それ以前は被災した勤務先の賃金だけで計算されていました。
短時間の送迎勤務で他にも仕事を持っている方が被災した場合、請求時に他の就業先を申告しなければ合算されません。掛け持ちの有無は本人しか分からないことが多いので、請求書類を用意する段階で必ず確認してください。
事故のあとに必要になる2つの届出
ここで扱う2つは、届出をする人が違います。①の労働者死傷病報告は事業者、つまり施設が行うものです。②の第三者行為災害届は、条文上「保険給付を受けるべき者」=被災した本人が行うものですが、実務では施設が書類の準備を手伝う場面が多いため、あわせて押さえておきたい届出です。
① 労働者死傷病報告(施設が行う・電子申請が原則)
労働安全衛生規則(昭和47年労働省令第32号)第97条第1項は、労働者が「労働災害その他就業中又は事業場内若しくはその附属建設物内における負傷、窒息又は急性中毒」により死亡し、または休業したとき、事業者は遅滞なく、電子情報処理組織を使用して所轄労働基準監督署長に報告しなければならないと定めています。休業日数が4日に満たないときは、同条第2項により四半期ごとに、その期間の最後の月の翌月末日までにまとめて報告します。
この電子申請は令和7年(2025年)1月1日から義務化されました。厚生労働省は、パソコン端末を所持していない等の事情により電子申請が困難な場合には、当分の間、書面による報告も可能としています。
なお、第97条第1項の対象は条文上「就業中又は事業場内」の負傷等です。通勤中の災害だけであれば、労働者死傷病報告の対象にはあたらないと整理されています。判断に迷う事案は、報告期限があるため早めに所轄の労働基準監督署へ確認してください。事故直後の初動については、送迎中に事故が起きたら?管理者が取るべき対応手順もあわせてご覧ください。
② 相手のいる事故は「第三者行為災害届」(届出は被災者本人)
送迎中の交通事故で相手方がいる場合は、労災保険法施行規則第22条により、保険給付を受けるべき者が「その事実、第三者の氏名及び住所……並びに被害の状況を、遅滞なく、所轄労働基準監督署長に届け出なければならない」とされています。これが第三者行為災害届です。
相手方の自賠責保険・任意保険と労災保険の両方から同じ損害を二重に受け取ることはできません。労災保険法第12条の4第1項は、政府が保険給付をしたときはその給付の価額の限度で被災者が第三者に対して持つ損害賠償請求権を取得する(求償)と定め、同条第2項は、先に第三者から損害賠償を受けたときはその価額の限度で保険給付をしないことができる(控除)としています。どちらを先に使うかで手続きの順序が変わるため、届出の前に労働基準監督署へ相談するのが確実です。
非常勤・再雇用・業務委託のドライバーはどうなるか
労災保険法第3条第1項は「この法律においては、労働者を使用する事業を適用事業とする」と定めています。労働者を1人でも使用していれば適用事業であり、雇用形態や労働時間の長短、年齢によって適用が変わるものではありません。週2日だけの非常勤ドライバーも、定年後に再雇用したドライバーも、労働者として雇っているなら労災保険の対象です。
一方、送迎業務を業務委託の形で外部の運転者に任せている場合は、話が変わります。ここで注意したいのは、契約書の名称だけで「労働者ではない」と決められるものではないという点です。労働者にあたるかどうかは実際の働き方をもとに個別に判断される領域なので、判断が必要な場面では所轄の労働基準監督署や社会保険労務士等の専門家にご確認ください。委託と自前運営の選び方そのものは、送迎業務の外部委託と自前運営、どちらが良い?で整理しています。
労災保険の「特別加入」という選択肢
労災保険法第33条は、労働者にあたらない一定の方について特別加入の道を開いています。介護の送迎に関係しそうなのは次の2つです。
▶ 中小事業主等(第33条第1号・第2号)
一定規模以下の事業の事業主(法人その他の団体であるときは代表者)と、その事業に従事する者(いわゆる家族従事者等)が対象です。条文は労働保険事務組合に労働保険事務の処理を委託していることを要件としています。規模の上限は労災保険法施行規則第46条の16が定めており、「常時三百人(金融業若しくは保険業、不動産業又は小売業を主たる事業とする事業主については五十人、卸売業又はサービス業を主たる事業とする事業主については百人)以下の労働者を使用する事業主」とされています。自施設が「主たる事業」としてどの区分になるかは、労働局または労働保険事務組合にご確認ください。
▶ フリーランス(特定受託事業者・第33条第3号/同法施行規則第46条の17第12号)
令和6年(2024年)11月1日から、企業等から業務委託を受けて働くフリーランスが、業種・職種を問わず特別加入の対象になりました。加入は、都道府県労働局長の承認を受けた特別加入団体に申し込む形で行います。委託しているドライバーがいる施設は、この制度があることを伝えておくだけでも、万一のときの選択肢が変わります。
未加入・保険料未納は「費用徴収」の対象になる
労災保険法第31条第1項は、事業主が故意または重大な過失により保険関係の成立の届出をしていない期間中に生じた事故、一般保険料を納付しない期間中(督促状の指定期限後に限る)に生じた事故、事業主が故意または重大な過失により生じさせた業務災害の原因である事故について保険給付を行ったときは、労働基準法の規定による災害補償の価額を限度として、その保険給付に要した費用に相当する金額の全部または一部を事業主から徴収することができると定めています。手続きの漏れが、そのまま金銭的な負担に跳ね返る仕組みです。
労災保険が出ても、施設の責任が終わるわけではない
労災保険の給付は、被災した労働者の損害をすべて填補するものではありません。慰謝料は労災保険の給付には含まれず、休業補償も賃金の全額ではありません。
そして労働契約法(平成19年法律第128号)第5条は、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と定めています。長時間の連続運転、整備の行き届かない車両、一人での車いす積み下ろし——こうした状態を放置したまま事故が起きれば、労災保険とは別に損害賠償を求められる可能性があります。
裏を返せば、日常点検・点呼・運行記録・シフト管理といった日々の仕組みが、そのまま施設を守る証拠になります。労災は「起きてから手続きする制度」ですが、施設の備えは起きる前にしかつくれません。
判断に迷ったときの確認先
この記事は法令と公表資料の一般的な整理です。個々の災害が業務災害・通勤災害のどちらにあたるか、労働者死傷病報告や第三者行為災害届が必要かについては所轄の労働基準監督署へ、特別加入や労働保険事務組合への委託については都道府県労働局または労働保険事務組合へ、雇用契約・業務委託契約の内容や労働者性の判断については社会保険労務士等の専門家へ、それぞれご確認ください。個別の事案は、実際の働き方と事故の状況をもとに判断されます。
出典:労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)第3条・第7条・第8条・第12条の4・第14条・第22条の2・第31条・第33条/労働者災害補償保険法施行規則(昭和30年労働省令第22号)第8条・第22条・第44条の2・第46条の16・第46条の17/労働基準法(昭和22年法律第49号)第76条・第84条/労働安全衛生規則(昭和47年労働省令第32号)第97条/労働契約法(平成19年法律第128号)第5条=いずれもe-Gov法令検索の法令APIで条文を確認(2026年9月時点)/厚生労働省「3-5 休業(補償)等給付の計算方法を教えてください。」/栃木労働局「労災保険給付の内容」/厚生労働省「労働者死傷病報告の報告事項が改正され、電子申請が義務化されました(令和7年1月1日施行)」/厚生労働省「令和6年11月1日から『フリーランス』が労災保険の『特別加入』の対象となりました」/厚生労働省「労働者災害補償保険法の改正について」(複数事業労働者・令和2年9月1日施行)。本記事では、トリニードカイゴがこれらの内容を要約・編集して紹介しています。制度の内容は改正されることがありますので、実際のお手続きの前に必ず最新の記載をご確認ください。
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