
「台風が近づいているが、明日の送迎は出していいのだろうか」——毎年この時期にいただくご相談です。結論からお伝えすると、中止の判断は当日その場で決めるものではなく、あらかじめ決めておいた基準に当てはめて確認するものです。指定通所介護には非常災害に関する具体的な計画を立てる義務があり(指定居宅サービス等基準第103条第1項)、業務継続計画の策定も求められています。さらに2026年5月29日から気象庁の防災気象情報の名称そのものが変わりました。施設のマニュアルが古い名称のままだと、現場が情報と基準を照合できません。この記事では、根拠を示しながら中止基準と連絡体制の作り方を整理します。
送迎の中止は「その日の判断」ではなく「事前の基準」で決まる
まず、施設に何が義務づけられているかを確認します。指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第37号)の第103条(非常災害対策)第1項は、指定通所介護事業者に対し「非常災害に関する具体的計画を立て、非常災害時の関係機関への通報及び連携体制を整備し、それらを定期的に従業者に周知するとともに、定期的に避難、救出その他必要な訓練を行わなければならない」と定めています。同条第2項では、訓練の実施にあたって地域住民の参加が得られるよう連携に努めることも求められています。
ここで押さえておきたいのは、条文が求めているのが「具体的計画」であって、心構えではないという点です。誰がいつ何を見て、どう決めて、誰に伝えるのか。文書として残っていなければ、運営指導で説明することもできません。
加えて、同基準第105条(準用)により、第30条の2(業務継続計画の策定等)が指定通所介護の事業について準用されます。第30条の2第1項は「感染症や非常災害の発生時において、利用者に対する(中略)提供を継続的に実施するための、及び非常時の体制で早期の業務再開を図るための計画」の策定を求め、第2項では従業者への周知と定期的な研修・訓練、第3項では定期的な見直しを定めています。「作って終わり」ではなく、見直しまでが条文に書かれているということです。
▶ 条番号の補足
通所介護の非常災害対策は第103条ですが、これは指定通所介護に固有の条文です。一方の業務継続計画は総則側の第30条の2を第105条で準用する形になっています。運営指導の場で根拠を聞かれることがありますので、この構造は押さえておくと安心です(基準該当通所介護の準用は第109条、共生型通所介護は第105条の3と別建てになっています)。
2026年5月29日から、防災気象情報の名称が変わりました
ここが今年いちばん大きな変更点です。気象庁は「令和8年5月29日から新たな防災気象情報の運用を開始しました」と案内しており、「これまでの大雨警報は、『レベル3大雨警報』という名称に変更になり、レベルの数字と一緒に情報が伝えられます」としています。対象は河川氾濫・大雨・土砂災害・高潮に関する情報等です。さらに、警戒レベル4に相当する情報として「危険警報」が新設されました。
現在の対応関係は次のとおりです。
▶ 警戒レベル1 早期注意情報(警報級の可能性)
▶ 警戒レベル2 レベル2注意報/キキクル「注意」(黄)
▶ 警戒レベル3 レベル3警報/キキクル「警戒」(赤)
▶ 警戒レベル4 レベル4危険警報/キキクル「危険」(紫)
▶ 警戒レベル5 特別警報/キキクル「災害切迫」(黒)
市町村が発令する避難情報の名称は、内閣府(防災担当)の「避難情報に関するガイドライン」(令和8年3月改定)のとおり、警戒レベル3が「高齢者等避難」、警戒レベル4が「避難指示」、警戒レベル5が「緊急安全確保」です。
お伝えしたいのは、施設の防災マニュアルや送迎中止基準が「大雨警報が出たら」という旧来の書き方のままになっていないかということです。実際に発表されるのが「レベル3大雨警報」という名称になった以上、基準の側も名称をそろえておかないと、現場のドライバーが照合に迷います。この夏から秋にかけての見直しをおすすめします。
中止基準の作り方|3つの段階に分けて決める
基準づくりでいちばん大切なのは、「危なくなったら止める」ではなく「この情報が出たらこうする」という形にすることです。前者は判断が人によって変わりますが、後者ならドライバーが交代しても同じ結論になります。
① 前日〜早朝:判断する時刻を先に決めておく
台風接近時に現場が混乱する原因の多くは、「いつ決めるか」が決まっていないことです。警戒レベル1の早期注意情報(警報級の可能性)は前日から確認できますので、「前日の何時に第一報を判断する」「当日の何時に最終判断する」と時刻を先に固定してしまうのが実務的です。判断者と、その人が不在のときの代行者もあわせて決めておきます。
この段階で決めるのは中止だけではありません。「午前の送迎のみ実施し、午後便は中止」「早めのお迎えに切り替える」といった中間の選択肢も、事前に用意しておくと判断が現実的になります。
② 警戒レベル3が出たとき:要配慮者を動かす方向を考える
警戒レベル3で市町村が発令するのは「高齢者等避難」です。これは、避難に時間がかかる方に避難を始めていただく段階を意味します。送迎はその高齢の利用者を車に乗せて道路上を移動させる業務ですから、同じ段階で通常どおり運行するかどうかは、慎重に考えるべき場面です。
この記事は一律の基準を示すものではありません。実際の判断は、施設が立地する地域の状況によって変わります。ただ、「レベル3が出た地域を通るルートは、原則として見合わせる」という線を先に引いておくと、当日の迷いはかなり減ります。事業所と利用者宅で市町村が異なる場合があることにも注意してください。
③ 走り出したあとの行動を決めておく
抜けやすいのがここです。出発後に状況が悪化した場合、ドライバーは車内で一人で判断することになります。「引き返す」「近くの安全な場所に停めて連絡する」「そのまま施設へ向かう」のどれを優先するのかを、あらかじめ決めておいてください。
あわせて、ルート上の冠水しやすい箇所・アンダーパス・河川沿いの道を地図に落としておくと、迂回の判断が早くなります。気象庁のキキクルは地域ごとの危険度が色で分かる形になっていますので、当日の確認手段としてドライバーにも共有しておくとよいでしょう。横浜市内のように坂と河川が入り組んだ地域では、同じ市内でもルートによって条件がかなり違います。
なお、走行中の急な事態への対応は、事故が起きたときの手順と地続きです。送迎中に事故が起きたら?管理者が取るべき対応手順もあわせてご確認ください。
避難確保計画の作成が義務になる施設があります
ここは見落とされやすい論点です。水防法第15条の3第1項は、「第十五条第一項の規定により市町村地域防災計画にその名称及び所在地を定められた要配慮者利用施設の所有者又は管理者」に対し、利用者の洪水時等の円滑かつ迅速な避難の確保を図るために必要な訓練その他の措置に関する計画(避難確保計画)の作成を義務づけています。作成したときは遅滞なく市町村長へ報告し(同条第2項)、計画に定めるところにより訓練を行ってその結果も市町村長へ報告することとされています(同条第5項)。
土砂災害についても同じ枠組みがあります。土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律(平成12年法律第57号)第8条の2第1項が、市町村地域防災計画にその名称及び所在地を定められた要配慮者利用施設に対して、同様の計画の作成を求めています。
▶ ここが分かれ目です
どちらの条文も、義務の対象を「市町村地域防災計画にその名称及び所在地を定められた要配慮者利用施設」と限定しています。つまり、すべてのデイサービスが自動的に対象になるわけではありません。自施設が対象に入っているかどうかは、市町村地域防災計画で確認する必要があります。ハザードマップ上で浸水想定区域や土砂災害警戒区域にかかっている施設は、まず確認してみてください。
この避難確保計画は、施設にいる利用者を守るための計画です。ただ、実際に作ると「どの情報が出たら誰が動くか」を整理することになりますので、送迎の中止基準と土台を共有できます。別々に作ってつじつまが合わなくなるより、非常災害対策の計画・業務継続計画・避難確保計画・送迎中止基準を、同じ情報の段階で並べて設計するほうが現実的です。
家族への連絡は、中止が決まってからでは遅い
中止基準ができても、伝わらなければ意味がありません。当日の朝に電話が集中して、事務所の回線が塞がるというのはよくある話です。
▶ 事前に伝えておくこと
「どういうときに中止になるのか」「いつ頃連絡が来るのか」「連絡がない場合はどう考えればよいのか」。この3つを、荒天の季節に入る前に利用者・ご家族へ周知しておくと、当日の問い合わせが大きく減ります。掲示だけでなく、書面で配るほうが確実です。
▶ 連絡手段は複数用意する
停電や通信の混雑を考えると、電話一本に頼る設計は避けたいところです。連絡網の順番、留守番電話に残す場合の文面、連絡がつかなかった方への対応(誰がいつ再架電するか、記録に残すか)まで決めておきます。
▶ ケアマネジャーへの連絡も忘れずに
サービスを中止すれば、その日のケアプランの実施状況が変わります。居宅介護支援事業者への連絡も手順に組み込んでおいてください。参考として、事故が発生した場合について同基準第104条の3第1項は「市町村、当該利用者の家族、当該利用者に係る居宅介護支援事業者等に連絡を行う」ことを定めています。荒天時の中止連絡も、この連絡先の枠組みをそのまま使えるように整えておくと迷いません。
ヒヤリハットの共有と同じで、こうした連絡の仕組みは平時に作っておかなければ当日には動きません。仕組み化の考え方は送迎のヒヤリハットを事故予防に活かす|収集・共有・改善の仕組みでも触れています。
判断に迷ったときの確認先
この記事は法令と公表資料の一般的な整理です。実際の運用には、施設ごと・地域ごとの事情が入ります。防災気象情報や避難情報の見方については気象庁および市町村の防災担当部署へ、避難確保計画の対象になっているかどうかや計画の様式については市町村の担当課へ、運営基準の解釈や運営指導での扱い、サービスを中止した日の介護報酬の取り扱いについては事業所の指定を受けている自治体(指定権者)および保険者へ、それぞれご確認ください。特に報酬の取り扱いは個別性が高く、この記事では扱っていません。
トリニードカイゴが、荒天時の判断を仕組みに落とし込みます
荒天時の送迎中止は、管理者の度胸で決めるものではありません。決める時刻、見る情報、決める人、伝える順番。この4つが文書になっていれば、担当が替わっても同じ判断ができます。逆にここが決まっていないと、毎回の台風のたびに同じ議論を繰り返すことになります。
トリニードカイゴは、運行管理者資格と送迎ドライバーとしての実務経験を持つコンサルタントが、横浜市を中心に神奈川県内の介護施設の送迎ドライバー管理をご支援しています。中止基準の様式づくりから、非常災害対策の計画・業務継続計画との整合、ドライバーへの落とし込み、運営指導で説明できる記録の残し方まで、現場が回る形でご提案します。
自施設の送迎中止基準が今の防災気象情報に合っているか気になる方は、お問い合わせフォームからお気軽にご相談ください。


