
送迎中に利用者の返事が急に遅くなった、顔色が悪い、座っていられない——そのときドライバーがまずやることは、安全な場所に車を停め、意識と呼吸を確かめ、ためらわず救急車を呼ぶべき症状があれば119番に通報することです(呼ぶべきか迷うときの相談先は#7119)。そのうえで施設へ連絡し、家族や主治医への連絡は施設側が引き取る形にしておくのが基本です。問題は、この順番を当日その場で考えさせていないかという点です。この記事では、送迎中の体調急変に備えて施設が事前に決めておくべきことを、運営基準と公的資料に沿って整理します。
送迎中の急変対応を「緊急時等における対応方法」から手順書に落とす
指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第37号)第27条は、訪問介護について「訪問介護員等は、現に指定訪問介護の提供を行っているときに利用者に病状の急変が生じた場合その他必要な場合は、速やかに主治の医師への連絡を行う等の必要な措置を講じなければならない」と定めています。この規定は同基準第105条で指定通所介護に準用され、「訪問介護員等」は「通所介護従業者」と読み替えられます。
さらに同基準第100条は、通所介護事業所ごとに定める運営規程の記載事項として、第8号に「緊急時等における対応方法」を挙げています。運営規程に書いてあっても、その中身が施設内での急変を想定したものだけになっていないでしょうか。送迎車の中は、看護職員がそばにおらず、ドライバー1人で判断を迫られることもある場面です。送迎中に起きた場合の手順を、施設内とは別に書き分けておくことをおすすめします。詳しい手順は、運営規程の「緊急時等における対応方法」から参照する手順書(マニュアル)の側に書いておくと、現場で使いやすくなります。
なお、小規模なデイサービスである地域密着型通所介護も、指定地域密着型サービスの事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成18年厚生労働省令第34号)第29条第8号で、同じ「緊急時等における対応方法」を運営規程に定めることとされています。
あわせて、指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準の第13条(第105条で準用)は、サービス担当者会議等を通じて利用者の心身の状況や、他の保健医療サービスの利用状況等を把握するよう努めることを求めています。持病やかかりつけ医の情報は、急変したときに救急隊へ伝える情報そのものです。送迎の担当者にも必要な範囲で共有されているかを確認してください。
ためらわず119番を呼ぶ症状の目安
総務省消防庁のリーフレット「救急車を上手に使いましょう」(令和7年10月発行)は、高齢者について「ためらわず救急車を呼んでほしい症状」を示しています。送迎中に気づきやすいものを抜き出すと、次のとおりです。
- 顔半分が動きにくい、しびれる/笑うと口や顔の片方がゆがむ/ろれつがまわりにくい
- 突然のしびれ、突然片方の腕や足に力が入らなくなる
- 突然の激しい頭痛、急にふらつき立っていられない
- 急な息切れ、呼吸困難/胸や背中の突然の激痛
- 意識がない(返事がない)またはおかしい(もうろうとしている)
- けいれんが止まらない/冷や汗を伴うような強い吐き気/物をのどにつまらせた
このほか、見える範囲が狭くなる・周りが二重に見える、突然の高熱、突然の激しい腹痛、血を吐くなども挙げられています。上は送迎中に気づきやすいものの抜粋なので、施設の手順書には、リーフレットの高齢者の一覧を、出典を明記したうえでそのまま載せてください。
同じリーフレットには、「高齢者は自覚症状が出にくい場合もありますので注意しましょう」という注意書きと、「その他、いつもと違う場合、様子がおかしい場合」も119番の目安として挙げられています。利用者本人が「大丈夫」と言っていても、それだけで様子見を決めないことが大切です(出典:総務省消防庁「救急車を上手に使いましょう~救急車 必要なのはどんなとき?~」)。
判断に迷うときの電話相談
救急車を呼ぶべきか迷うときは、救急電話相談の#7119が使えます。神奈川県では、それまで横浜市内に限られていた#7119が令和6年(2024年)11月1日から県内全域に広がり、「かながわ救急相談センター」として24時間365日、看護師等が相談に応じています。ただし神奈川県も「緊急時は迷わず119番へ」としています。上に挙げたような症状があるときは、相談ではなく通報を優先してください。
車内で急変したときの初動5ステップ
ここからは、ドライバーが実際に動く順番です。施設の手順書にそのまま落とし込める形でまとめます。
▶ ① 安全な場所に停める
ハザードランプを点け、近くの停められる場所まで進んで、速やかに停車します。道路交通法第44条第1項は、交差点、横断歩道、踏切、坂の頂上付近、トンネルのほか、交差点の側端や道路の曲がり角から5メートル以内、横断歩道の前後5メートル以内などを停車・駐車の禁止場所としています。車外へ出るときは、同法第71条第4号の3が求めるとおり、安全を確認してからドアを開けます。路肩に停めた車の横は、後方から自転車やバイクが抜けていく場所です。
▶ ② 意識と呼吸を確かめて119番
呼びかけに応じるか、普段どおりの呼吸をしているかを確かめ、必要なら119番に通報します。道路交通法第71条第5号の5は、手に持って使う携帯電話での通話を運転中は禁じつつ、「傷病者の救護又は公共の安全の維持のため当該自動車等の走行中に緊急やむを得ずに行うもの」を除いています。ただ、走りながらでは利用者の顔色も呼吸も見られません。停車してから通報するのを基本にしてください。
▶ ③ 通信指令員の指示に従い、応急手当をする
消防庁のリーフレットによれば、応急手当が必要な場合は、119番通報を受けた通信指令員等が口頭で手当のやり方を案内する場合があります。電話を切らずに指示を聞けるよう、スマートフォンのスピーカー通話に切り替えられるようにしておくと、両手が使えます。
▶ ④ 施設へ連絡し、以降の連絡は施設が引き取る
119番の後、施設の管理者または看護職員に一報を入れます。家族、主治医、担当のケアマネジャーへの連絡は施設側が引き取ると決めておくと、ドライバーは目の前の利用者に集中できます。
▶ ⑤ ほかの利用者の安全を確保する
送迎車には他の利用者も乗っています。救急隊が到着したあと、ドライバーが車を離れられるのか、誰がほかの利用者を施設や自宅へ送るのかを決めておかないと、現場で手が止まります。施設から応援の職員や車両を出す手順まで、平時に決めておいてください。
送迎途中の通報で困るのは「住所が分からない」こと
119番では、救急であることの次に住所を聞かれます。消防庁のリーフレットは、住所は市町村名から伝えること、分からないときは近くの大きな建物や交差点など目印になるものを伝えることを案内しています。送迎ルートの途中で急変した場合、ドライバーが番地まで答えられることはまずありません。ルート上の目印(交差点名・公共施設・大型店舗)を送迎表に書き添えておくだけで、通報の時間は短くなります。住所のあとは、具合の悪い方の症状、年齢、通報者の名前と連絡先を聞かれるのが一般的な流れです。
AEDと応急手当の講習
厚生労働省の通知「非医療従事者による自動体外式除細動器(AED)の使用について」(平成16年7月1日 医政発第0701001号)は、救命の現場に居合わせた一般市民がAEDを使うことは、一般的に反復継続性が認められず、医師法第17条違反にはならないと考えられるとしています。一方で、業務の内容や活動領域の性格から一定の頻度で心停止者に応急の対応をすることが期待・想定されている者については、医師等による速やかな対応を得ることが困難であること、対象者の意識と呼吸がないことを確認していること、AEDの使用に必要な講習を受けていること、医療用具として承認を得たAEDであること、の4つの条件を示しています(出典:厚生労働省ホームページ「非医療従事者による自動体外式除細動器(AED)の使用について」)。
送迎担当者がこの「期待・想定されている者」にあたるかどうかまで通知は名指ししていませんが、送迎を担う職員には応急手当の講習を受けてもらうことを前提にしておくのが確実です。消防庁のリーフレットにもあるとおり、講習は各地の消防署で行われています。
救急隊に伝える情報は乗車前にそろえておく
消防庁のリーフレットは、救急隊が到着したら「事故や具合が悪くなった状況」「救急隊が到着するまでの変化」「行った応急手当の内容」「具合の悪い方の情報(持病、かかりつけの病院やクリニック、普段飲んでいる薬、医師の指示等)」を伝えるよう案内しています。
前半の3つは、その場で起きたことなのでドライバーが答えられます。答えられないのは最後の「具合の悪い方の情報」です。施設の事務所には書類があっても、送迎車の中には何もない——これが送迎中の急変でいちばん困る点です。利用者ごとに持病・かかりつけ医療機関・服用中の薬・緊急連絡先をまとめたカードを用意し、送迎時に持ち出せるようにしておくと、救急隊への引き継ぎが早くなります。
ただし、このカードは要配慮個人情報のかたまりです。車内に置きっぱなしにしない、送迎が終わったら回収する、といった管理のルールも一緒に決めてください。考え方は介護施設の送迎と個人情報|利用者の自宅情報・名簿の取り扱いと配慮で整理しています。
乗車前の体調確認で、送迎中の急変を減らす
急変への備えは、車に乗せる前から始まっています。お迎えの時点で「今朝はいつもと違う」と気づければ、乗車を見合わせる判断もできます。
厚生労働省の通知「医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について」(平成17年7月26日 医政発第0726005号)は、医療機関以外の介護の現場で原則として医行為ではないと考えられるものとして、次の3つを挙げています。
- 水銀体温計・電子体温計により腋下で体温を計測すること、及び耳式電子体温計により外耳道で体温を測定すること
- 自動血圧測定器により血圧を測定すること
- 新生児以外の者であって入院治療の必要がないものに対して、動脈血酸素飽和度を測定するため、パルスオキシメータを装着すること
見落としやすいのは、同じ通知の注2です。「上記1から3までに掲げる行為によって測定された数値を基に投薬の要否など医学的な判断を行うことは医行為であり、事前に示された数値の範囲外の異常値が測定された場合には医師、歯科医師又は看護職員に報告するべきものである」とされています(出典:厚生労働省ホームページ「医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について(通知)」)。
ただし同じ注2の前段では、病状が不安定であること等により専門的な管理が必要な場合には、測ること自体が医行為とされる場合もあり得るとされています。どの利用者を誰が測るかも、看護職員と決めておいてください。
そのうえで、乗車の可否のような判断も測定値に基づく医学的な判断にあたり得るため、数値を見て「乗せて大丈夫」と決めることを送迎担当者に任せないのが安全です。施設として、利用者ごとに「この範囲を外れたら看護職員に報告する」という基準をあらかじめ示しておき、送迎担当者は報告して判断を仰ぐ、という線引きにしておくと、現場も迷いません。お迎えのときに家族から「昨夜あまり眠れていない」「朝ごはんを食べていない」といった申し送りがあった場合も、同じように施設へつなぐ流れにしておきます。
急変のあとの記録と、横浜市への事故報告の考え方
送迎中の急変が落ち着いたら、次に確認するのは行政への事故報告が必要かどうかです。横浜市「介護保険事業者向け事故報告マニュアル」(令和8年4月1日)は、報告が必要な事故の種別として、「送迎中の車両事故」(送迎・通院等の間の事故で、利用者が乗車している場合に限る)と並べて、「急な体調変化(原則死亡した場合に限る)」を挙げています。病気等で亡くなった場合でも、死因等に疑義が生じる可能性があり、家族等とトラブルになる可能性があるときは報告するよう求めています。
整理すると、横浜市の基準では次のようになります。
▶ 体調を崩して救急搬送し、その後回復した(けがを伴わない場合)
「急な体調変化」は原則として死亡した場合に限られるため、行政報告は原則不要です。ただし、管理者が報告の必要があると判断したものは報告の対象になります。また、急変の際に車内で転倒・転落してけがをし、治療が必要になった場合は、「転倒」「転落」として報告の対象になり得ます。
▶ 車内で食べ物や飲み物を詰まらせた
「誤嚥・窒息」として報告の対象になり得ます。行政報告が必要になるのは、医師の診断を受け投薬、処置等何らかの治療が必要となった場合が原則です。
▶ 利用者が亡くなった
電子申請の前に、電話で速やかに所管課へ第一報を入れることとされています。
報告が必要な場合、第一報は速やかに(横浜市のマニュアルでは当日中若しくは翌日中、遅くとも5日以内)、電子申請システムで行います(横浜市「介護保険事業者における事故発生時の報告取扱要領」)。利用者が横浜市以外の市町村の被保険者であれば、その市町村にもあわせて報告することとされています。報告の対象や基準はその市町村の定めによるため、そちらも確認が必要です。報告の要否を判断しかねるときは、所管課(通所介護は健康福祉局介護事業指導課)に確認してください(2026年9月時点)。
そして、行政報告の対象にならなくても記録は残します。横浜市のマニュアルのフローチャートにも「報告の対象でない場合も、事業所内で適切に記録を残すこと」と明記されています。いつ、どこで、どんな様子に気づき、何時に通報し、誰に連絡したか。この経過が残っていれば、家族への説明にも、次の手順の見直しにも使えます。記録の残し方は送迎記録・運行記録の正しい書き方もあわせてご覧ください。
施設で決めておきたい「送迎中の急変」ルール
ここまでの内容を、施設で決めておく項目として並べ直します。手順書を見直すときの点検表としてお使いください。
▶ 119番の基準
どんな様子なら迷わず通報するか。消防庁の「ためらわず救急車を呼んでほしい症状」を手順書に載せ、迷ったときの相談先(#7119)もあわせて明記しているか。
▶ 連絡の順番
119番の次に誰へ連絡するか。管理者・看護職員が不在の時間帯の連絡先も決まっているか。
▶ 救急隊に渡す情報
持病・かかりつけ・服薬・緊急連絡先のカードが送迎時に持ち出せ、終わったら回収する運用になっているか。
▶ 乗車前の報告基準
体温・血圧などの測定値について、「この範囲を外れたら看護職員に報告」という基準が利用者ごとに示されているか。
▶ ほかの利用者と応援体制
救急搬送になったとき、残りの利用者を誰がどう送るかが決まっているか。
▶ 講習と振り返り
送迎を担う職員が応急手当の講習を受けているか。急変が起きたあと、手順どおりに動けたかを振り返る場があるか。
判断に迷ったときの確認先
この記事は運営基準と公表資料の一般的な整理です。個々の利用者の乗車の可否や、測定値の報告基準などの医学的な判断は主治医や施設の看護職員へ、救急車を呼ぶべきか迷うときは#7119(緊急時は119番)へ、事故報告の要否は事業所の所管課(横浜市の通所介護は健康福祉局介護事業指導課)へ(利用者が他の市町村の被保険者であれば、その市町村の報告基準もあわせて)、運営規程の記載内容や運営指導での扱いは事業所の指定を受けている自治体(指定権者)の担当課へ、それぞれご確認ください。
出典:指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第37号)第13条・第27条・第100条・第105条/指定地域密着型サービスの事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成18年厚生労働省令第34号)第29条/道路交通法(昭和35年法律第105号)第44条・第71条=いずれもe-Gov法令検索で条文を確認(2026年9月時点)/総務省消防庁「救急車を上手に使いましょう~救急車 必要なのはどんなとき?~」(令和7年10月発行)/神奈川県「救急電話相談『#7119』が県内全域で始まります」(令和6年10月30日)/厚生労働省「非医療従事者による自動体外式除細動器(AED)の使用について」(平成16年7月1日 医政発第0701001号)/厚生労働省「医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について(通知)」(平成17年7月26日 医政発第0726005号)/横浜市「介護保険事業者向け事故報告マニュアル」(令和8年4月1日)/横浜市「介護保険事業者における事故発生時の報告取扱要領」(令和7年3月18日改正・令和7年4月1日施行)。本記事では、トリニードカイゴがこれらの内容を要約・編集して紹介しています。制度や運用は改正されることがありますので、実際の対応の前に必ず最新の記載をご確認ください。
トリニードカイゴが、急変時の手順と連絡体制づくりをご支援します
送迎中の急変は、起きる頻度が低いぶん、手順が現場に定着しにくい分野です。通報の基準、連絡の順番、救急隊に渡す情報、残った利用者の送り方——どれも、決めてあるかどうかで当日の数分が変わります。
トリニードカイゴは、運行管理者資格と送迎ドライバーとしての実務経験を持つコンサルタントが、横浜市を中心に神奈川県内の介護施設の送迎ドライバー管理をご支援しています。送迎ルートごとの目印の整理、急変時の連絡網と手順書づくり、ドライバー研修への組み込みまで、現場で実際に使える形でご提案します。
送迎中の急変対応に不安のある方は、お問い合わせフォームからお気軽にご相談ください。


