
「送迎名簿を助手席に置いたままにしているが、問題ないだろうか」——施設の管理者の方からいただく質問です。結論からお伝えすると、送迎名簿やルート表のように利用者の氏名・住所・体調を体系的に整理した情報は、個人情報保護法上の「個人データ」にあたり、しかも「要配慮個人情報」を含みやすい情報です。加えて介護保険の運営基準にも秘密保持の定めがあり、送迎は法令上の配慮が二重にかかる業務です。この記事では、根拠を示しながら現場で必要な取り扱いを整理します。
送迎で扱う情報は「個人データ」であり、配慮の度合いが高い
個人情報保護委員会と厚生労働省は「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」(平成29年4月14日・令和8年4月一部改正)を定めています。このガイダンスの対象には、「介護保険法に規定する居宅サービス事業、介護予防サービス事業、地域密着型サービス事業、地域密着型介護予防サービス事業、居宅介護支援事業、介護予防支援事業及び介護保険施設を経営する事業」が含まれます。通所介護を行う施設は、当然この対象です。
送迎名簿に載っている情報の重さ
送迎名簿やルート表には、氏名・住所・電話番号に加えて、車いすの利用、乗降時の介助の要否、当日の体調やご家族の連絡先といった情報が並びます。ここが重要な点です。個人情報保護法第2条第3項が定める要配慮個人情報には、個人情報保護委員会のガイドライン(通則編)で、政令が定めるものとして次のような記述等が挙げられています。
▶ 身体障害・知的障害・精神障害(発達障害を含む)などの障害があること
▶ 健康診断等の検査結果
▶ 医師等により心身の状態の改善のための指導、診療または調剤が行われたこと
送迎名簿に「車いす」「歩行不安定」「服薬あり」といった記載があれば、それは障害や診療に関する情報と結びつきます。一般の顧客名簿と同じ感覚で扱ってよい書類ではない、ということです。
介護保険の運営基準にも秘密保持の定めがある
もう一つの根拠が、指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第37号)です。第33条(秘密保持等)は次のように定めています。
「指定訪問介護事業所の従業者は、正当な理由がなく、その業務上知り得た利用者又はその家族の秘密を漏らしてはならない」(第1項)
「指定訪問介護事業者は、当該指定訪問介護事業所の従業者であった者が、正当な理由がなく、その業務上知り得た利用者又はその家族の秘密を漏らすことがないよう、必要な措置を講じなければならない」(第2項)
「指定訪問介護事業者は、サービス担当者会議等において、利用者の個人情報を用いる場合は利用者の同意を、利用者の家族の個人情報を用いる場合は当該家族の同意を、あらかじめ文書により得ておかなければならない」(第3項)
この条文は訪問介護の章に置かれていますが、指定通所介護については同基準第105条が「第三十二条から第三十四条まで」を準用しており、第33条がそのまま適用されます(基準該当通所介護は第109条、共生型通所介護は第105条の3が同様に準用しています)。実務上おさえておきたいのは、第2項が「従業者であった者」まで対象にしている点です。ドライバーが退職したあとも秘密が守られるよう、施設側が必要な措置を講じる義務があります。誓約書の取り交わしや、退職時の資料・鍵の返却手順は、この義務に対応する具体策にあたります。
送迎の現場で起きやすい場面と、決めておきたいこと
名簿・ルート表を車内に残さない
送迎車は、施設の外に長時間置かれ、複数のドライバーが交代で使う車両です。名簿を助手席やダッシュボードに置いたままにすれば、車上荒らしや置き忘れで容易に外部へ出ます。運行後は名簿を施設に戻して施錠保管する、車内に残す場合はドライバーが携行する、といった運用を明文化してください。名簿に個人宅の住所が並んでいる以上、紙一枚でも「個人データの持ち出し」です。
乗降時の声かけと、車外に聞こえる会話
玄関先での乗降は、近隣の方の目と耳がある場所で行われます。大きな声で診断名や排泄の話題を出す、玄関前で体調を確認しながら書類を読み上げる、といった対応は避けたいところです。利用者ご本人の呼称も、施設内と同じ調子でよいとは限りません。「近所に介護サービスの利用を知られたくない」というご意向は珍しくなく、事前に把握して申し送りに残しておくと、ドライバーが交代しても配慮が引き継がれます。
ドライブレコーダーの映像
ドライブレコーダーの映像には、利用者の顔、自宅の外観、ご家族の姿が記録されます。安全管理には有効な設備ですが、記録された映像も個人情報です。閲覧権限・保存期間・廃棄ルールの決め方は送迎車のドライブレコーダー導入ガイドで整理していますので、そちらをご覧ください。
個人のスマートフォンでのやり取り
「〇〇さん、まだ玄関に出てきません」といった連絡を、ドライバーの個人のスマートフォンからメッセージアプリで送る。急いでいる場面では起こりがちですが、端末が私物である以上、施設の管理が及びません。連絡手段と、そこに書いてよい情報の範囲(氏名を出さず番号で呼ぶ等)を、あらかじめ決めておくことをおすすめします。
委託ドライバー・派遣ドライバーがいる場合
送迎業務を外部に委託している場合も、利用者の情報を渡す以上、施設側の責任がなくなるわけではありません。医療・介護関係事業者向けのガイダンスは、安全管理措置・従業者の監督・委託先の監督を法第23条から第25条の枠組みとして整理しています。委託先に対しても秘密保持の取り決めを結び、名簿の受け渡しと返却の手順、担当交代時の対応まで文書で定めておく必要があります。
なお、派遣のドライバーは施設の指揮命令を受けて働くため、委託先の監督(法第25条)ではなく、自施設の従業者と同じ監督(法第24条)の対象として整理するのが基本です。契約の形によって施設が負う義務の種類が変わる点は、押さえておきたいところです。委託と自前運営それぞれの論点は送迎業務の外部委託と自前運営、どちらが良い?にまとめています。
名簿を紛失したときに何が起きるか
ここが、送迎の個人情報を軽く見てはいけない最大の理由です。令和4年4月1日から、個人データの漏えい等について個人情報保護委員会への報告と本人への通知が義務になりました。個人情報保護委員会は、報告が義務となる事態として次の4つを挙げています。
▶ 要配慮個人情報が含まれる事態
▶ 財産的被害が生じるおそれがある事態
▶ 不正の目的をもって行われた漏えい等が発生した事態
▶ 1,000人を超える漏えい等が発生した事態
報告は2段階です。同委員会は、まず速報を「速やか(概ね3~5日以内)」に行うよう案内しており、その後、確報を発覚日から30日以内(不正の目的をもって行われたおそれがある場合は発覚日から60日以内)に提出することとされています。一報を入れて終わりではない点に注意してください。
注目していただきたいのは1つめです。要配慮個人情報が含まれていれば、人数の多寡にかかわらず報告の対象になり得ます。送迎名簿の記載内容によっては、一冊の紛失でもここに該当する可能性があります。「何人分だから大丈夫」という判断はできません。
紛失に気づいた時点で誰に報告するのか、施設として誰が判断するのか。この連絡経路が決まっていないと、速報の期限である3〜5日を調査だけで使い切ってしまいます。
なお、この記事は法令とガイダンスの一般的な整理です。自施設の取り扱いが個人情報保護法上どう評価されるか、運営基準の解釈が実際にどうなるかといった個別の判断までは決めきれません。個人情報の取り扱いや漏えい時の報告については個人情報保護委員会に、運営基準の解釈や運営指導での扱いについては事業所の指定を受けている自治体(指定権者)の担当課に、それぞれご確認ください。
トリニードカイゴが、送迎の情報管理を仕組みに落とし込みます
送迎の個人情報の問題は、ドライバーの意識ではなく仕組みで防ぐものです。名簿の保管場所と持ち出しのルール、乗降時の配慮を申し送りに残す形、ドライブレコーダーの再生権限と保存期間、委託先との取り決め、紛失時の連絡経路。この5つを文書にして、ドライバーが交代しても同じ運用が続く状態にすることが目標になります。
トリニードカイゴは、運行管理者資格と送迎ドライバーとしての実務経験を持つコンサルタントが、横浜市を中心に神奈川県内の介護施設の送迎ドライバー管理をご支援しています。名簿の様式づくりから、ドライバーへの落とし込み、運営指導で説明できる記録の残し方まで、現場が回る形でご提案します。
自施設の送迎で扱っている情報が法令の求める水準で管理できているか気になる方は、お問い合わせフォームからお気軽にご相談ください。


