認知症の利用者の送迎対応|乗車拒否・不穏時に身体的拘束としないための実務

トリニードカイゴ|介護施設の送迎ドライバー管理

 

認知症の利用者が「今日は行かない」と乗車を拒む、走行中にシートベルトを外そうとする——送迎では珍しくない場面です。ここで手を引いて乗せる、ベルトを押さえて動きを止めるといった対応をとると、介護保険の運営基準でいう「身体的拘束等」に当たるおそれがあります。しかも令和6年度の介護報酬改定で、通所介護にも身体的拘束等の禁止と記録が新たに規定されました。この記事では、送迎中の対応がどこから拘束になるのかを条文で整理します。

 

送迎中の対応が「身体的拘束等」に当たる場合がある

指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第37号。以下「居宅基準」)第98条は、指定通所介護の具体的取扱方針として、第3号で「当該利用者又は他の利用者等の生命又は身体を保護するため緊急やむを得ない場合を除き、身体的拘束等を行ってはならない」と定め、第4号でその態様・時間・利用者の心身の状況・緊急やむを得ない理由の記録を義務づけています。

 

ここでいう身体的拘束等とは、同基準第23条第3号が定義する「身体的拘束その他利用者の行動を制限する行為」です。ベルトで固定するような分かりやすいものに限られません。そして送迎は、事業所の従業者が実施しない場合に片道につき減算されると定められているとおり、通所介護の事業と一体のものとして位置づけられています。建物のなかだけの話と考えず、送迎車の車内も同じ基準のもとにあると捉えておくのが安全です。

 

令和6年度改定で通所介護にも明記された

この規定は以前からあったものではありません。厚生労働省の解釈通知「指定居宅サービス等及び指定介護予防サービス等に関する基準について」の新旧対照表では、通所介護の身体的拘束等に関する記載が「新設」として追加されています(令和6年1月25日厚生労働省令第16号による改正)。

 

ただし通所介護に及んだのは禁止と記録までです。適正化のための委員会の開催・指針の整備・研修の定期実施といった措置は、居宅基準では短期入所生活介護(第128条)・短期入所療養介護(第146条)・特定施設入居者生活介護(第183条)に規定されており、通所介護には課されていません。ここを混同した解説も見かけますので、自事業所に必要な対応を正確に押さえてください。

 

例外が認められる「緊急やむを得ない場合」の3要件

例外が認められるのは、生命または身体を保護するため緊急やむを得ない場合に限られます。同じ解釈通知は、この理由について切迫性・非代替性・一時性の3要件を満たすことを求めています。それぞれの意味は、厚生労働省「身体拘束ゼロへの手引き」(平成13年3月・身体拘束ゼロ作戦推進会議)で次のように示されています。

 

  • 切迫性:利用者本人又は他の利用者等の生命又は身体が危険にさらされる可能性が著しく高いこと
  • 非代替性:身体拘束その他の行動制限を行う以外に代替する介護方法がないこと
  • 一時性:身体拘束その他の行動制限が一時的なものであること

 

解釈通知はさらに、これらの要件の確認等の手続きを「組織等として……極めて慎重に行う」ことを求めています。走行中のドライバーがその場の判断だけで踏み切ってよいものではない、ということです。

 

記録は、居宅基準第104条の4第2項により完結の日から2年間保存しなければなりません。「やむを得ずやったが記録はない」という運用は基準を満たしていないことになります。送迎中の出来事は記録が漏れやすいので、運行記録と合わせて残す仕組みにしておくと確実です。

 

乗車を拒まれたとき、現場でどう動くか

結論から申し上げると、拒否された時点で無理に乗せず、事業所に連絡して判断を仰ぐのが原則です。到着が遅れることよりも、無理に乗せて転倒や事故につながることのほうがはるかに重大です。

 

拒否には理由があると考える

「行きたくない」の背景に、体調が悪い、トイレに行きたい、目の前の人が誰か分からず不安、といった事情が隠れていることがあります。急がず、名乗って用件を短く伝え、返事を待つ。この順番を守るだけでも変わります。

 

なお居宅基準第98条第6号は、認知症(略)である要介護者に対して「必要に応じ、その特性に対応したサービスの提供ができる体制を整える」ことを求めています。体制を整えるのは事業者の責務であり、ドライバー個人の力量に委ねる問題ではありません。

 

走行中に不穏になったら、まず停める

走りながら振り返って声をかける、片手で押さえる——こうした対応は道路交通法第70条(安全運転の義務)に照らしても適切とはいえません。同条は「当該車両等のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作し、かつ、道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない」と定めています。安全な場所に停車してから対応する、手に負えなければ事業所に応援を求める。この2つをルールとして決めておいてください。

 

管理者が整えておくべき3つの備え

▶ 1. 出発前の申し送りを仕組みにする

その日の体調や前回の様子が共有されていれば、ドライバーは身構えずに済みます。「昨日は帰りたがった」という情報こそ、送迎前に届いている必要があります。

 

▶ 2. 判断の分かれ目を事前に決めておく

「何分待っても乗車されない場合は事業所に連絡」「一人で乗せようとしない」など、迷わない基準を文章にしておきます。判断をその場に丸投げしないことが、結果としてドライバーを守ります。

 

▶ 3. ドライバーの研修の要否を確認する

居宅基準第101条第3項は、看護師・介護福祉士・介護職員初任者研修修了者などの資格を持つ者を除く全ての通所介護従業者に、認知症介護に係る基礎的な研修を受講させるために必要な措置を講じることを事業者に義務づけています。判断の軸を示しているのが厚生労働省「令和3年度介護報酬改定に関するQ&A(Vol.3)」問6で、「人員配置基準上、従業者の員数として算定される従業者以外の者や、直接介護に携わる可能性がない者については、義務付けの対象外である」と回答しています。

 

つまり「直接介護に携わる可能性があるか」が分かれ目です。送迎ドライバーを名指しした公式回答はなく、運転だけを担当しているのか、乗り降りに手を添えているのかで結論が異なりえます。自己判断せず指定権者(都道府県・市町村の介護保険担当課)にご確認ください。研修の組み立て方は送迎ドライバー研修の作り方もご参考ください。

 

送迎体制の見直しはトリニードカイゴへ

トリニードカイゴは、運行管理者資格と送迎ドライバーの実務経験の両方を持つ立場から、横浜市を中心に神奈川県内の介護施設の送迎体制づくりをお手伝いしています。

 

認知症の利用者への対応は、ドライバーの人柄や経験だけに頼ると、担当が替わった途端に品質が落ちます。申し送りの様式、判断基準、記録の残し方までを仕組みにしておくことが、利用者の安全と職員の安心につながります。運営指導で問われるのも、まさにこの仕組みの有無です。現状の送迎体制を点検したい、記録様式を整えたいといったご相談を承っています。お問い合わせよりお気軽にご連絡ください。