
「送迎マニュアルはあるけれど、何年も前に作ったまま」「ドライバーが読んでいるか分からない」——そんな状態でも大丈夫でしょうか。結論からお伝えすると、運営基準に「送迎マニュアル」という名前の書類を作るよう定めた条文は見当たりません。ただし、緊急時の対応、事故発生時の連絡と記録、非常災害対策など、送迎の場面でも果たさなければならない義務は運営基準に定められています。送迎マニュアルは、こうした義務を「送迎のどの場面で、誰が、何を、どの順で行うか」に落とし込んだ手順書です。この記事では、デイサービス(指定通所介護)を例に、送迎マニュアルに盛り込む項目と、現場で使われ続けるための更新・周知の仕組みを整理します。
送迎マニュアルと法令の関係を押さえる
指定通所介護の運営基準である「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準」(平成11年厚生省令第37号。以下「居宅基準」)を見ると、「送迎」という言葉が出てくるのは、主に送迎に要する費用や通常の送迎の実施地域に関する規定です。送迎マニュアルの作成そのものを定めた条文は見当たりません。
一方で、送迎中にも当然かかわってくる義務は、次のように定められています。
▶ 運営規程(第100条)
事業所ごとに定める運営規程の記載事項として、第8号に「緊急時等における対応方法」、第9号に「非常災害対策」が挙げられています。
▶ 緊急時等の対応(第27条を第105条で準用)
サービスの提供中に利用者に病状の急変が生じた場合などは、速やかに主治の医師への連絡を行う等の必要な措置を講じなければなりません。
▶ 事故発生時の対応(第104条の3)
サービスの提供により事故が発生した場合は、市町村、利用者の家族、居宅介護支援事業者等に連絡を行い、必要な措置を講じるとともに、事故の状況と採った処置を記録しなければなりません。
▶ 非常災害対策(第103条第1項)
非常災害に関する具体的計画を立て、関係機関への通報・連携体制を整備し、それらを定期的に従業者に周知するとともに、定期的に避難・救出その他必要な訓練を行わなければなりません。
▶ 業務継続計画(第30条の2を第105条で準用)
感染症や非常災害の発生時に向けた業務継続計画を策定し、従業者への周知と研修・訓練の定期的な実施、定期的な見直しを行うこととされています。
運営規程に「緊急時等における対応方法」と書いてあっても、その中身が施設内での場面だけを想定していると、看護職員がそばにいない送迎車の中では使えません。送迎の場面に合わせて手順を書き分けたものが送迎マニュアルだと位置づけると、何を書くべきかが見えてきます。
安全運転管理者を選任している施設は、その業務も軸になる
道路交通法第74条の3第1項は、一定の台数以上の自動車を使用する本拠ごとに、安全運転管理者の選任を自動車の使用者に義務づけています。台数は道路交通法施行規則第9条の8第1項で、乗車定員11人以上の自動車は1台、その他の自動車は5台とされています。
安全運転管理者の業務は同規則第9条の10に9つ挙げられており、送迎マニュアルの項目と重なるものが多くあります。たとえば、運行計画の作成(第2号)、異常な気象や天災などで安全な運転に支障が生ずるおそれがあるときの必要な指示(第4号)、点呼等による点検の実施や過労・病気などの有無の確認(第5号)、運転の前後の酒気帯びの有無の確認(第6号)とその記録の1年間保存(第7号)、運転日誌の備え付け(第8号)などです。選任の対象となる施設は、これらの業務をマニュアルの手順に組み込んでおくと、日々の運用と記録がつながります。選任義務や業務の詳細は安全運転管理者の選任義務とは?介護施設が知るべき基礎知識を解説で整理しています。
送迎マニュアルに盛り込む項目と目次例
送迎マニュアルは、送迎の流れ(出発前→迎え→走行→到着→送り→終業後)の順に並べ、そのあとに緊急時と記録をまとめると、現場で必要な箇所を引きやすくなります。以下は目次の一例です。施設の規模や車両、利用者の状況に合わせて調整してください。
1. 総則|目的・役割分担・連絡先・改訂履歴
最初に、マニュアルの目的と対象(どの事業所の、どの送迎に使うか)を書きます。続いて、管理者、安全運転管理者(選任している場合)、ドライバー、添乗介助者のそれぞれが何を担うかを明記します。施設・管理者の緊急連絡先、改訂履歴(いつ・何を・誰が変えたか)もここに置いておきます。
2. 出発前と終業後|点呼・酒気帯びの確認・日常点検
点呼のやり方(誰が、どこで、何を確認するか)、体調不良や寝不足を申し出たときの交代の流れ、酒気帯びの有無の確認方法と記録の付け方、車両の点検の項目と記録を書きます。「体調が悪いときは申し出る」だけでなく、申し出たあとに誰が代わりに運転するのかまで決めておくと、無理な出発を防ぎやすくなります。安全運転管理者を選任している施設では、酒気帯びの確認は運転を終えたときにも行う必要があります(道路交通法施行規則第9条の10第6号)。送迎を終えたあとの確認を誰が、どこで行い、どう記録するかもあわせて書いておきます。
3. 送迎表・ルート・停車位置
送迎表の作り方と変更の連絡ルート、利用者ごとの乗降場所と停車位置、自宅前の段差や狭い道などの注意点を書きます。利用者ごとの情報は、マニュアル本体ではなく別紙(利用者ごとの送迎カードなど)にまとめ、マニュアルからは「どこを見るか」を示す形にすると、更新の手間が少なくなります。
4. 乗降介助と車内での安全確認
乗降時の介助の手順、車いすの固定とシートベルトの確認、ドアを開け閉めするときの声かけ、発進前の確認を書きます。あわせて、すべての利用者が降車したあと、車内の後部座席まで見て回って確認する手順と、その確認を誰が記録するかも決めておきましょう。
5. 天候・災害時の判断
大雨や台風、大雪などのときに、送迎を中止・変更する基準と、判断する人、ご家族への連絡方法を書きます。非常災害対策の計画や業務継続計画と食い違わないよう、中止基準そのものは1か所にまとめ、送迎マニュアルからはそこを参照する形にしておくと、改訂漏れを防げます。
6. 緊急時|交通事故と体調急変
交通事故が起きたときと、利用者の体調が急変したときは、取るべき行動が異なります。それぞれについて、車内での初動、119番や警察への通報、施設への連絡、ご家族や居宅介護支援事業者への連絡の順番を分けて書いておきます。体調急変の初動と連絡体制はデイサービス送迎中の急変対応|車内での初期対応と119番・連絡体制で詳しく整理しています。
7. 記録と報告
運転日誌、点呼や酒気帯びの確認の記録、車両の点検記録、事故やヒヤリハットの報告のそれぞれについて、様式と書く人、保管場所、保存期間を決めます。事故については、居宅基準第104条の3第2項が事故の状況と採った処置の記録を求めており、この記録は第104条の4第2項第6号により、その完結の日から2年間保存しなければなりません(指定権者の条例で別の期間が定められている場合もあるため、あわせて確認してください)。行政への事故報告の対象や期限は自治体ごとに定められているため、事業所の指定を受けている自治体の要領を確認して、マニュアルに反映しておきましょう。
現場で使える送迎マニュアルにする4つの工夫
立派なマニュアルがあっても、ドライバーがいざというときに開けなければ役に立ちません。次の4点を意識すると、現場で使われるマニュアルに近づきます。
▶ 判断の基準は具体的に書く
「十分に注意する」ではなく、「何を見て、どうなっていたら、誰に連絡して、どうする」の形で書きます。判断に迷う場面ほど、具体的な基準が助けになります。
▶ 車内には要点だけの1枚を置く
緊急時の連絡の順番と施設の連絡先など、車内ですぐに見たい内容だけを1枚にまとめます。利用者の情報を載せる場合は、持ち出しや保管、廃棄のルールも一緒に決めておきます。
▶ 写真や図を使う
停車位置や車いすの固定方法などは、文章より写真や図のほうが伝わります。車両が替わったら写真も差し替えます。
▶ 書いたとおりに動いてみて直す
新しく入ったドライバーにマニュアルだけを読んでもらい、その通りに動いてもらうと、抜けている手順や分かりにくい表現が見つかります。
送迎マニュアルの更新と周知の仕組み
マニュアルは、作った時点から少しずつ現場とずれていきます。参考になるのが、業務継続計画についての規定です。居宅基準は、業務継続計画について従業者への周知と必要な研修・訓練の定期的な実施(第30条の2第2項)、定期的な見直しと必要に応じた変更(同条第3項)を求めており、非常災害の計画についても定期的な周知と訓練(第103条第1項)を求めています。「作る・知らせる・練習する・見直す」を1つの流れとして回す考え方は、送迎マニュアルにもそのまま当てはまります。
見直しのきっかけを決めておく
定期の見直し時期(たとえば年に1回など)を施設で決めるとともに、次のような出来事があったときにも見直すと決めておくと、改訂が後回しになりにくくなります。
▶ 事故やヒヤリハットがあったとき
▶ 車両の入れ替えや、ドライバー・添乗介助者の交代があったとき
▶ 利用者の状態の変化やルートの変更があったとき
▶ 法令や自治体の要領、防災気象情報の名称などが変わったとき
周知したことを記録に残す
改訂したら、変更点だけをまとめた1枚を作り、朝礼や研修で読み合わせをして、参加者と日付を記録します。居宅基準第101条第3項は、従業者の資質の向上のために研修の機会を確保することを求めています。送迎マニュアルの読み合わせや、事故・急変を想定した連絡訓練を研修の中に組み込んでおくと、周知と練習を同時に進められます。「伝えた」ではなく「いつ、誰が、何を確認したか」が残っていることが、仕組みとして回っている証拠になります。
判断に迷ったときの確認先
この記事は、法令の条文に沿った一般的な整理です。運営規程や事故報告、業務継続計画など運営基準の解釈や運営指導での扱いは、事業所の指定を受けている自治体(指定権者)の担当課へ、安全運転管理者の選任や業務については、自動車の使用の本拠を管轄する警察署へご確認ください。なお、小規模なデイサービスである地域密着型通所介護は別の省令(指定地域密着型サービスの事業の人員、設備及び運営に関する基準)で定められているため、条番号が異なります。
出典:指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第37号)第27条・第30条の2第1項〜第3項・第100条第8号・第9号・第101条第3項・第103条第1項・第104条の3第1項・第2項・第104条の4第2項第6号・第105条、道路交通法(昭和35年法律第105号)第74条の3第1項・第2項、道路交通法施行規則(昭和35年総理府令第60号)第9条の8第1項・第9条の10=いずれもe-Gov法令APIで条文を確認(2026年10月時点)。本記事では、トリニードカイゴがこれらの内容を要約・編集して紹介しています。法令は改正されることがありますので、実際の対応の前に必ず最新の条文をご確認ください。
送迎マニュアルの整備をご支援します
送迎マニュアルは、作ることよりも、現場で使われ続けることのほうが難しいものです。送迎の流れに沿って手順を書き、車内で使える形にし、見直しと周知を記録に残す——この仕組みができれば、ドライバーが替わっても同じ水準の送迎を保ちやすくなります。
トリニードカイゴは、運行管理者資格と送迎ドライバーとしての実務経験を持つコンサルタントが、横浜市を中心に神奈川県内の介護施設の送迎ドライバー管理をご支援しています。今あるマニュアルの見直しや、点呼・記録の運用づくり、ドライバーへの落とし込みなど、施設の状況に合わせてご相談いただけます。
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