
「送迎中にスピード違反で捕まった。反則金は施設が払うべき?」「利用者宅の前に停めていたら駐車違反の標章を付けられた」——送迎の現場では、こうした相談が管理者のもとに突然持ち込まれます。結論から言うと、交通違反の反則金は、道路交通法上、違反をした運転者本人に納付が通告されるお金です。一方で、駐車違反の放置違反金は、運転者が反則金を納めない場合などに、車両の使用者(施設名義の送迎車なら施設側)に納付が命じられることがあります。そして、施設がいったん負担したお金をドライバーの給料から差し引くには、労働基準法の制限があります。この記事では、条文を確認しながら、送迎中の交通違反にかかるお金の整理と、施設として決めておくべきルールを解説します。
送迎中の交通違反で発生するお金は「誰に請求されるか」がそれぞれ違う
ひとことで「罰金」と呼ばれがちですが、送迎中の交通違反で発生するお金には性質の違うものがあります。まずは、誰に請求されるのかを整理しておきましょう。
▶ 反則金(比較的軽い違反)
反則行為をした運転者本人に、納付が書面で通告されます(道路交通法第127条第1項)。業務中の違反でも、通告を受けるのは運転していたドライバーです。
▶ 放置違反金(駐車違反)
運転者が反則金を納めない場合などに、公安委員会が車両の使用者に納付を命ずることができます(同法第51条の4第4項)。施設が使用者となっている送迎車であれば、施設側に届くことになります。
▶ 罰金(刑事手続になるもの)
反則金の制度の対象にならない違反や、反則金を納めなかった場合には、刑事手続に進むことがあります。罰金は刑罰であり、科されるのは原則として違反をした本人です。
このほか、違反の内容によっては、施設そのものが道路交通法上の責任を問われる場面があります(後述の第75条)。順に見ていきます。
送迎ドライバーの反則金は、道路交通法上は運転者本人に通告される
反則金の仕組み|道路交通法第125条・第128条
道路交通法第125条第1項は、「反則行為」を、同法の罪に当たる行為のうち別表第二に掲げるもので「車両等の運転者がしたもの」と定めています。反則金は、反則者がこの制度の適用を受けようとする場合に「国に納付すべき金銭」とされ(同条第3項)、通告を受けた日の翌日から起算して10日以内に納付することとされています(第128条第1項)。なお、通告の前でも、告知を受けた日の翌日から起算して7日以内であれば、反則金に相当する金額を仮に納付することができます(第129条第1項)。納付した場合は、その行為について公訴を提起されません(第128条第2項)。
つまり反則金は、違反した運転者が刑事手続に進まないために納めるお金という位置づけです。送迎という業務の最中であっても、通告を受ける当事者は運転者本人になります。
事故を起こした場合などは反則金の対象外
反則行為をした人でも、無免許(免許の効力が停止されている場合を含む)、酒気を帯びた状態での運転、反則行為によって交通事故を起こした場合などは、「反則者」から除かれます(第125条第2項)。こうした場合は反則金の手続ではなく、刑事手続の対象になります。送迎中の違反が事故につながった場合は、お金の負担の話よりも先に、事故対応と利用者の安全確認が最優先です。
施設が肩代わりするかどうかは、あらかじめ決めておく
道路交通法が通告の相手として定めているのは運転者本人です。そのうえで、施設が業務中の違反の反則金を負担するのか、本人負担とするのかは、施設と職員の間であらかじめ決めておくべき社内ルールの問題になります。決めていないと、違反のたびに管理者の判断がぶれ、「前の人は施設が払ったのに」という不公平感につながります。施設が負担する場合の会計・税務上の処理は、顧問の税理士に確認しておくと安心です。
施設が負担すると決める場合でも、違反の報告と原因の振り返りまでをセットにしておくことが大切です。お金だけを施設が引き受けると、同じ運転者・同じルートで違反が繰り返されても、施設がそれに気づきにくくなります。
駐車違反の放置違反金は送迎車の使用者に命じられる
施設名義で使っている送迎車であれば、納付を命じられるのは施設側です(職員の自家用車を送迎に使っている場合などは、その車の使用者が誰かによって変わります)。
放置違反金の流れ|道路交通法第51条の4
運転者が車を離れて直ちに運転できない状態で違法駐車をすると、警察官等により車両に確認標章が取り付けられることがあります(第51条の4第1項)。そして公安委員会は、その車両を放置車両と認めるときは、車両の使用者に対し、放置違反金の納付を命ずることができるとされています(同条第4項)。ただし、標章が取り付けられた日の翌日から起算して30日以内に、違法駐車をした運転者が反則金を納付した場合などは、この限りではありません(同項ただし書)。
神奈川県警察も、放置駐車違反をした運転者が出頭しない場合に車両の使用者責任を追及するのが放置違反金制度であると説明しています。あわせて、督促を受けても納付しない場合は預貯金や給料等の差押えがあり得ること、滞納が解消されない限り車検を受けることができないことも案内しています。送迎車が車検を通せなくなれば、送迎そのものが止まりかねません。
繰り返すと送迎車が使えなくなることも|第75条の2第2項
放置違反金の納付命令を受けた使用者が、標章が取り付けられた日前6月以内にも同じ車両で納付命令を受けていたなどの場合、公安委員会は、3月を超えない範囲で、その車両を運転し、又は運転させてはならない旨を命ずることができます(第75条の2第2項)。台数の限られた送迎車が1台使えなくなるだけで、運行計画は大きく崩れます。
利用者宅の前での乗り降りのための停車と、運転者が車を離れる駐車は、道路交通法上の扱いが異なります。玄関まで付き添う間の停め方は、送迎ルートを組む段階で決めておくことが、違反の予防になります。停車と駐車の違いや乗降時の安全確認は「デイサービス送迎車の停車・乗降時の事故を防ぐ|道交法と安全確認の手順」で解説しています。
反則金や違反金の給料天引きは労働基準法に注意
「施設が払った放置違反金を、運転していたドライバーの給料から差し引きたい」という相談もあります。ここで気をつけたいのが労働基準法です。業務委託の形で送迎をお願いしているドライバーについても、契約書の名称だけで労働基準法上の「労働者」に当たらないと決まるわけではなく、実際の働き方をもとに個別に判断されます。
賃金の全額払い|労働基準法第24条第1項
労働基準法第24条第1項は、賃金は「その全額を支払わなければならない」と定めています。賃金の一部を控除できるのは、法令に別段の定めがある場合か、労働者の過半数で組織する労働組合(ない場合は労働者の過半数を代表する者)との書面による協定がある場合です。協定などの根拠がないまま、施設の判断だけで給料から差し引くことはできません。また、放置違反金は道路交通法上、車両の使用者に納付が命じられるお金です。それを職員に負担してもらってよいか、どう精算するかは、就業規則や個別の事情によって判断が変わるため、社会保険労務士などの専門家に確認してから決めましょう。
「違反したら罰金」の決まりと減給の制裁|第16条・第91条
就業規則や雇用契約に「交通違反をしたら罰金として一定額を支払う」とあらかじめ金額を決めておくことにも注意が必要です。労働基準法第16条は、使用者が「労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約」をすることを禁じています。
また、就業規則で減給の制裁を定める場合は、第91条により、「一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない」とされています。実際に放置違反金などを本人に負担してもらうかどうか、懲戒の対象とするかどうかは、就業規則の定めや個別の事情によって判断が変わります。運用を決める前に、社会保険労務士などの専門家に相談することをおすすめします。
送迎ドライバーの違反を施設が「容認」すると道交法第75条の問題になる
交通違反のお金は運転者本人の問題、とだけ考えていると見落とすのが、施設側の責任です。道路交通法第75条第1項は、自動車の使用者(安全運転管理者等その他自動車の運行を直接管理する地位にある者を含む)が、その者の業務に関し、運転者に一定の違反行為をすることを命じ、又は容認してはならないと定めています。対象には、最高速度違反(第2号)、過労運転など(第4号)、駐車違反となる放置行為(第7号)などが含まれます。
▶ 到着時刻に無理のある送迎表
道路状況を考えると速度を出さなければ間に合わない計画を、そのまま回していないか。
▶ 「少しの間なら路上に置いて」という指示
車を離れて玄関まで付き添う運用を、駐車場所を決めないまま黙認していないか。
▶ 疲れや体調不良を押しての乗務
交代要員がいないことを理由に、運転できる状態か確認しないまま乗務させていないか。
違反した場合で、業務に関し自動車を使用することが著しく交通の危険を生じさせるおそれがあるなどと認められるときは、公安委員会が6月を超えない範囲で、その自動車を運転させないよう命じることができます(第75条第2項)。さらに、第2号・第4号・第7号の違反には使用者等に対する罰則があり(第118条第2項第3号、第117条の2の2第2項第3号、第119条の2の4第2項)、第123条のいわゆる両罰規定により、法人も罰金刑の対象となります。無免許運転を命じ・容認してはならない義務(第75条第1項第1号)とその罰則については「送迎ドライバーの免許証確認と更新管理|道交法75条と失効を防ぐ仕組み」でも詳しく解説しています。反則金を誰が払うか以前に、違反が起きにくい運行計画になっているかが、施設として問われるポイントです。
送迎中の交通違反に備えて施設で決めておく4つのルール
▶ 1. 違反・標章の報告ルール
反則切符を交付されたとき、駐車違反の標章を付けられたときは、当日中に管理者へ報告する。放置違反金は、運転者が期間内に反則金の手続をとらないと車両の使用者(施設名義の車なら施設)に納付命令が届く流れなので、報告が遅れると選択肢が狭まります。報告したこと自体を理由に不利益な扱いをしないことも、あわせて伝えておくと報告が上がりやすくなります。
▶ 2. 費用負担の考え方
反則金・放置違反金を施設と本人のどちらが負担するのかを、文書で決めて周知する(常時10人以上の職員がいる事業場では、就業規則への記載と届出が必要になる場合があります=労働基準法第89条)。職員の人数にかかわらず、本人に負担を求めるかどうか、給料から控除してよいかは、労働基準法第24条などに照らして社会保険労務士などに確認してから決める。
▶ 3. 原因の振り返り
違反の背景に、送迎表の時間設定や停車場所の問題がないかを確認し、ルートや人員配置の見直しにつなげる。同じ場所・同じ時間帯の違反は、個人ではなく計画の問題であることが少なくありません。
▶ 4. 記録の保管
違反の内容、報告日、対応、再発防止策を記録しておく。安全運転管理者による運転者の状況把握や、ドライバー研修の題材としても役立ちます。
出典:道路交通法(昭和35年法律第105号)第51条の4第1項・第4項、第75条第1項・第2項、第75条の2第2項、第117条の2の2第2項第3号、第118条第2項第3号、第119条の2の4第2項、第123条、第125条第1項・第2項・第3項、第127条第1項、第128条第1項・第2項、労働基準法(昭和22年法律第49号)第16条、第24条第1項、第89条、第91条=e-Gov法令APIで現行の条文を確認(2026年10月時点)/神奈川県警察「違法駐車対策【目次・概要】」。本記事では、トリニードカイゴがこれらの内容を要約・編集して紹介しています。法令や運用は改正されることがありますので、実際の対応の前に必ず最新の情報をご確認ください。個別の事案の判断は、警察・弁護士・社会保険労務士などの専門家にご相談ください。
トリニードカイゴが、送迎中の違反を防ぐ運行の仕組みづくりをご支援します
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トリニードカイゴは、運行管理者資格と送迎ドライバーとしての実務経験を持つコンサルタントが、横浜市を中心に神奈川県内の介護施設の送迎ドライバー管理をご支援しています。送迎ルートの見直しや、違反・事故の報告ルールづくりについても、施設の状況に合わせてご相談いただけます。
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